従順なる原初の使い魔 第十と半節




 これは、二人が寝台のある部屋に通される前のことである。

 隧道に入る扉は、月が沈んでから目の前に現れるのではないかと気がつき、二人で入ったところ、 二人とも壁に吸い込まれて、不思議な管理人に初めてあった日、その日、隧道から出てきた陽子は、早速尋ねられたのだ。

「どうだった?」

 鈴も祥瓊も、その様子を聞きたがった。

 それはそうだ。話を聞けば聞くほど、陽子と浩瀚が恋仲になる可能性が増している。

 二人とも、陽子と浩瀚が恋仲になったことが金波宮に知れ渡るようなことがあれば、あまり良くないことになるだろうということは、もちろんわかっていた。 しかし、鈴や祥瓊の目から見れば、陽子も、浩瀚も、もっと政務意外でも親しくしてもよさそうなものなのだ。

 王と冢宰、その立場を超えることは難しいだろうが。

 もしそうなれば、陽子がもっと幸せになれるような、二人はそんな気がしていたのだ。


 陽子は、ひとしきり話をした後、

「どうやら、明日はその不思議な場所を案内してくれるみたいなんだ」

「あら、素敵ね。景王とその恋人が代々使った隧道だなんて」

 鈴が、陽子の着替えを手伝いながら、微笑んだ。

「そうね、今までの景王もお使いになったのかしら。台輔にも使令にも見られずに、お二人で愛を語ることができるなんて、すごいところね」

 祥瓊も、昔王宮に住んでいたので、驚いたように話す。

「そうなんだよ。なんだか怖いよね。そういうことって、誰にも見られたくは無いけど、景麒や使令が入れないって言うのも、なんだかね」

 陽子は、寝巻きに着替えながら、そうもらした。

「そうよ。明日も入るんでしょ?きっと二人が愛を語るお部屋があるはずだわ」

 鈴が確信に満ちた声ではっきりと告げた。

「え〜〜、浩瀚と一緒に行くの、ちょっと恥ずかしいな」

「まあ、陽子。そんなこと無いでしょ。きっと立派な寝台が置いてあるわよ」

「祥瓊、ちょっとやめてくれる!」

「あら、陽子ったら、うふふ、そのくらい当たり前じゃない」

「鈴までそんなこと言う。いや、まあ、確かにそうかもしれないけど……」

「でしょ?どうするの、陽子。もし、素敵な寝台があって、浩瀚様も陽子のことを想っていらしたら?」

「そうよね。誰にも知られないんだったら、素敵な夜がすごせるかもよ?」

「あ、あのね、祥瓊、鈴も。ちょっと聞いてくれる?」

「「はい、はい」」

「確かに、浩瀚は良くやっている。たいした人物だと思うよ。一人の男としても、そうだね。好き……だと思う」

 最後の方は、小さな声になってしまった。頬を染めうつむいている陽子を、鈴と祥瓊はお互いに微笑みあうと陽子のそばにより、肩を軽くたたいた。

「無理強いしているわけではないのよ」

 祥瓊は、うつむく陽子と目を合わせるために膝をつき下から見上げる。

「陽子がいやなら、さらりと流せばいいじゃない」

 鈴が、陽子の背中に腕を回して軽く抱きしめる。

 二人とも、この歯がゆいくらいにおくての恋を心から応援していた。

「そうだね。もし、寝台があったら、なんて言うか今から考えておくとするか」

 まあ、と二人とも目を見開くが、真剣にどう言うか考えている陽子を見て、クスリと密やかに笑いあった。

 そして、夜は更ける。二人の友達と慶東国国主は、それぞれの床に付いたのだった。


 そして次の日、三日月が沈んでから入った隧道で、また、かわいい管理人に会い、その案内をしてもらった陽子は、 その飲んでいたお茶のせいとは知らず、妙に体や心がうきうきと高揚するのを感じながらも、予想通り、大きな寝台のあるところに連れてこられたのだった。

 陽子は、昨日散々考えて、自分の、ともすればよこしまな方向へ走ろうとする思いを、百八十度転換するために、 「寝台は管理人が使っている」と思い込むことにしたのだ。

 日ごろ、どんな下官やはしための心もおろそかにしない陽子が、こういうときに限って自分のことしか考えられなくなる。

 そう、彼女は浩瀚がどんな思いで寝台の前に立ったか、などということは、まったく考慮できなかった。

 あれ、浩瀚も笑っている。やった、受けたよ!自分もなかなか冗談の才能があるかも。そう思って、ますます陽子の気持ちは軽くなった。


 その日、隧道から出てきた陽子は、さっそく祥瓊や鈴にその様子を報告した。

 二人の管理人達が話してくれるという、昔の景王の話には二人とも興味津々であったが、 豪奢な寝台を管理人使用限定にしたあたりの話には、冢宰に心から同情した。

 国王と冢宰の恋、不器用なくらいでちょうど良いかもしれないけれど。

 

第十一節

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