その28



「YOOKO様!」

「あ、Welcome! 心配した?」

「はい、ちょっと長かったですから。出てこなくなってしまったらどうしようかと思いましたよ」

「へぇ? ほんとう?? だってまだ20分ぐらいしか経ってないよ」

「いや、普通の海だったらこんなに心配しませんよ。何しろここの海ときたら海水一滴掬えない、 へんてこりんな海ですからね」

「そうだったね。私たちが暮らしていた黄昏星ととてもよく似ているけれど、 そうでないところもあるようだね。でも、今日は収穫が多かったよ」

「おお、それは頼もしい! いったいどんな成果があったんですか?」

「うん、まず水を貰えそうだ」

「へ? もらえそうって……?? YOOKO様、『商店街の福引』じゃないんですから」

「ちょっと待て、Welcome。『商店街の福引』って何? 初めて聞いたよそんな言葉。 ええっと商店街っていうのは……」

「だいぶ古い言葉で、必要な物やサービスをお金と言う媒体を使って流通させていた時期があるらしいんですよ」

「はあ? ああ、聞いたことがあるよ。またずいぶん昔の話を引っ張ってきたんだね。 そうそう、そのころはずいぶん面倒なことをしていたんだってCircle4が言っていたよ。 そんなことをしたら、それだけで何人も人手がいることになるよね?」

「そりゃ、だってYOOKO様、大昔は黄昏星に何十億って言う人が住んでいたんでしょ?」

「そうらしいよ」

「考えられないですね」

「うん、想像を絶するよ。そうか! そんなに人がいるってことは、 その人たちがみんな仕事をしていたわけだから、 それぞれが色々な事柄を細かく分担してやっていたんだね。 機械化もそう進んでいなかったろうからな」

「そうですよ」

「で、商店街はまあいいとして、福引って何?」

「『くじ』だそうです」

「それ説明になってないよ」

「ですよね。なんでも大昔は望む物や事柄が思い通りにならなかったそうですよ。 富の分配が不公平で、持てる者は何でもできたけれど、一方で持てない者はいくら『仕事』をしても、 富を蓄えることができなかったそうです」

「それは、知っているよ。歴史で習ったからね」

「そういう中で、みんなで富を少しずつ出し合って、大きなものを買っておき、 それを『当たり』という賞品にして、くじという、 玉とか札とかそんなものをあたりがほしい人の分だけ作っておき、 みんなの見ている所で公平に引いて、当たっているくじを引いた人がその賞品をもらったそうですよ」

「あ、なるほど! 幸福を引くから福引?」

「だと思います」

「そうだね。昔の方が生活は大変だったかもしれないけど、メリハリがあったような気がするね」

「誠に」

「そうか、だから今の我々にとっては、水は『商店街の福引』に当たるくらい運が良く嬉しい事ってわけだ」

「そういうことです」

「うん、Welcomeは最高だね。話していてすごく楽しいよ」

「お褒めに預かりまして光栄です」

「あははは……、COOCANの言語プログラムはすごいね」

「で、水はどうやって分けていただけるんですか?」

「表出させてくれるそうだ」

「???」

「私も???だよ。まあ、任せるしかないよね」

「そりゃそうですね。他にも何かあるんですか?」

「うん、あのね、人型を取ってくれたんだ」

YOOKOはとてもうれしそうにWelcomeに話していた。

「それで、名前がないと呼びにくいって言ったら、私に名前を付けてほしいて言われたんだ。 だから、『AKEMI』さんと付けさせてもらった」

「女性だったんですか?」

「うん、女性型だったよ。見た目の年齢はよくわからなかったけど、40歳ぐらいの感じかな。 名前の意味を知りたいと言ったので、これから始めるっていう意味を込めた 暁から取ったと言ったら喜んでくれたんだ」

「へえ、それじゃあ我々の星と感覚的にはあまりずれていないみたいですね」

「そうなんだ! それが解ったことが今回一番の収穫かもしれない。 次に来るときはCOOCANもって言われたよ!」

「YOOKO様、うれしそうですね。なんだか『焼けます』よ」

「へ? 何を焼くの??」

「いや、何でもありません。さあ、COOCANさまが待っていますので、帰りましょう」

「そうだね」

YOOKOがWelcomeの中へ入るとすぐに通信が入った。もちろん、COOCANからだ。

「YOOKO、聞こえますか?」

「はい、COOCAN。よく聞こえるよ!」

YOOKOの声は弾んでいた。今会ったことを話したくて仕方なかったからだ。 COOCANにもそんな気持ちは伝わったようだ。

「どうやら、何か進展があったようですね」

「うん、解る?」

「解りますとも」

「すぐに帰るから。それと、どこかから水が出てきてないかな?」

「は? 水が出てくるんですか?」

「うん、AKEMIが表出させてくれるって言ったんだ」

「AKEMIとは、どなたですか?」

「この星の人とまた、会えたんだ。名前がないと呼びにくいって言ったら、 私に名前を決めてほしいって言われた」

「そうですか、それは良かった。Welcome聞こえるか?」

「あいあいさー、聞こえますよCOOCANさま」

「YOOKO様を連れて帰ってきてくれ。それと……」

「ついでに、水が表出していそうな場所をチェックしてくるんでしょ? 了解です」

COOCANは通信機の向こうで苦笑していた。

「COOCAN、すぐ帰るよ。待っていてね」

「早いお帰りを!」

そこで、二人は通信を切った。

「じゃあ、行こうか」

「はいわかりました」

セーフティチェアに身体を寄せると、YOOKOはWelcomeのスクリーンを最大にした。

「これで、水が出ていたら解るよね」

「そうですね、では行きますよ」

ぼわん、静かな振動と共に、Welcomeはホバーリングを始めた。 やがて、ふわりと機体を浮かせると垂直の崖に沿ってゆっくり上昇した。